14. 三宮仁義なき戦い

その日は僕はラストで、井上さんが早番であった。
店に行くと、どうもおかしい雰囲気が漂い、
休みであるはずの高見店長が、小店舗でうなだれ
何人かのその筋の男たちに囲まれてきた。

ランチの井坂さんに聞いた。
「なにがあったんですか?」
裏の通路で、ひそひそ声で
「ランチで出した、カットキャベツ。工場で作って送ってくるやつ
あれが、相当傷んでいたみたいで・・。」
「そういえば、あれひどいですよね、出したんですか?」
「そうなの・・それでね、893のひとで、
食べてすぐ、傷んでるのわかったみたいで・・井上さんが呼ばれて
これ、くさってるやろ、と、聞いたのよ、でね、
井上さんが、これまた正直に、くさってますね!
と、とどめの一言をいってしまい。・・」
ぼくは、冷や汗が出るのを感じた。
「それで、井上さんはどこにいったんですか?」
「それでね、急におなかが痛いとか、言い出してね」
「医者につれていったんですか?」
「そうなの、でも、まだ帰ってこない、すごく、大きなこえだして
大変で、他のお客さんも怒って帰るし・・」

ぼくは、驚いて再び店長のところにいった。
893の上司らしいひとが怒鳴ってる。
「はよ、おまえじゃああかんのや!社長出せよ!」
「はい、いま連絡をしていますから・・」
そんなこんなで、電話が店にあり、当時は携帯もないから
店の電話しかない
893の上司のひとが電話に呼ばれた

「いまから行きますから少しお待ちください」
「はよ、こいや!話つけるや!」
「いま、大阪からいきますから」

電話を切って、高見店長のところにもどり
何人かの893の部下さんも増えていた。
893さんの上司は、ふと立ち止まり。
「おまえ、社長呼べいうたやろ!なんで、大阪からくるねん
東京からくるはずやろが!」
「はい、担当の者が来ますので・・」

現れたのは、丸SVだった、絶対に苦情ではどんなものでも
社長役員は出ない、出さないというのが営業本部の原則。
きりが無いのである。

丸SVが現れたころに、疲れ果てた井上さんが当事者893と
ボローラで病院から帰ってきた。
なぜか、とても仲良くなっていた。
「おまえは、よくやってくれた」と、井上さんを褒めていた。

後から考えれば、すぐに食べておなかが痛くなるはずもなく、
「腐ってますね」の言葉が彼らには玉音となり、
まあ、出す方も出す方だし、工場も工場。
井上さんが全部悪いわけでないが・・。

「腐ってますね」の禁句を、いってはいけないし、
苦情処理も井上さんは習ってなかった、しかも、気が弱かった。

よりにもよって、その893の親分の高い高い外車が、
Y夢野店で、食事したあと、深夜車を置いて帰り
翌日にくると、ぼこぼこにやんきーに潰されており。
893一家はかんかんになり、車の修理の賠償をすかいらーくに
求めていた。その件は、本部の担当者は拒否しており
こじれにこじれていた。こじれにこじれていたときに
このスライスキャベツ事件が勃発したのだ。

気がつくと、怒鳴る893チームと冷や汗の丸SV,うつむく高見店長。
だんだんと、チームは増員された。
当時、神戸三宮は、山口組1羽飼いの闘争で、バンバンやられており
ボウタイ法もなく、民事不介入で、なすすべもなかった。
すこして、893チームは退散した、
休戦して、本部対応、弁護士対応。
本部には、日本軍参謀OBや、警視庁OBのひとを何人か採用しており
それこそ、ぼくらのようなありんこのようなものがでるまくでなかった。

丸SVも、相当頭にきており、実はその数かけ月前に、ごうてんの奥さんの弟
やまひろというバイトが893相手に問題を起こし、
「神戸港にドラム缶にセメント入れてしずめたろか!」
と、丸SVは脅されたいたこともあり、
まあ、ドラム缶は丸いからしゃれでもないが

井上さんも相当落ち込んで、励ますすべもなかった。
事業部では噂はひろまり、対応を慎重にすべきという意見が多く。
三宮店の前にも別の893さんの事務所があり、
もう、ひやひやの状態だった。

その件は、ぼくらはノータッチになったものの
恐れていたことが起きた。

ぼくと、女の子がアイドルタイム(昼過ぎのこと)
ふたりでフロアー営業。ぼくは、キッチンと掛け持ち。
「きましたよー、」
と、女の子がぼくにいう。
「誰が?」
「893来た」
「ええええ!」

女の子は、実は井上さんの彼女。

ぼくが対応するので一切前にでないでね、
と、いい、893を小店舗の隅に案内した。
すると、2名4名5名8名しまいには
20数名の893様ご一行となり、
小店舗は満席となった。

ぼくは、腹をくくり、
ミスをしないこと、こぼさないこと、いらないことはいわない。
で、オーダーを取りまくった。
全部、喫茶であった。

ぼくには893ご一行から、そのとき、あだ名がついた。
「ぶーちゃん」である。
なんといわれようが、耐えなければ成らぬ。
「おい、ぶーちゃん、あほかおまえは、兄貴のホットチョコの
ほう、先にもってこんかい!だぼか」
もう、満席の893さん、どれが兄貴か舎弟かわからない。
汗をかきつつ
「失礼しました、」と、頭を下げ、兄貴のホットチョコを提供。
兄貴のほっとちょこを机に置くとき。
すこし、sソーサーが揺れた、
「ぶーちゃん、こわいか、こわいやろ」
なにを求めて来てるのか。ミスを求めて来てるのか

ぼくは、必至に女の子が作る、紅茶やドリンク、パフェを
テーブルに持って行った。
もう、パンクしてるので、見るに見かねて
女の子はフォローしだした、それが一番びびった。
ああ、もし何かあれば命に代えて、
井上さんの彼女を守らなければならない・・。

やっと、すべてはおわった。
ぼくをからかっていた893さんはありがとう、
と、言って帰った。
893の兄貴が全部おごりだった、
払い終わって、すごすごと、帰って行った。

ぼくは、気が抜けて、座り込んだ。
キッチンの村田さんも心配してのぞきに来た。
そのときは、何もなくおわったのだが・・。

恐れていたことが再び起きた。

それから数かけ月後、
新メニューの準備で店で徹夜していた。
みんな、バイトも帰り、遅番の店長も帰り、
後ろの鉄扉を閉めにいったら、
何人かの、警察官と、刑事が立っていた。
「こちらのほうに、なにか、飛んできませんでしたか?」
ぼくは、は?
と、聞き直した
「なにが飛んで来たのですか?」
「あの、そこで、抗争があって、たまが飛んで来なかったですか?」
「え、来てないですが、来てるかもしれません」
ぼくは、とっさに、流れ弾がぼくの胸に当たり
倒れる光景が目に浮かんだ。
刑事が
「調べてもいいですか?」
と、いい、どんどん店には行っていった、二階の庭とか見てるようだったか
弾痕はなかった。

ぼくは、警察官が帰ったあと、店をけん銃に閉め、新メニューの準備を
5時までかかってやりとげ、いざ帰ろうとしたら
店の窓から下をみると、警官が50名ほどいて、二宮交差点から道路を封鎖し
けん銃の弾をローラー作戦で探しはじめた。
もう、店の前は封鎖され
車も出せず、
店で寝ることにした。

しかし、すかいらーくでは893さんが来たら、どうするか、きちんとすれば
大丈夫で、あとあとから考えれば、服装とかサングラスとかでわかりやすいし
きちんと金は払うので、ガスト初期時代のわけのわからないDQN苦情よりは
わかりやすいのであった。

ごうてんは三宮時代は893のエリートと友人に成り、よく守ってもらった
といっていたが、ほらにちがいない。

この項終わり。



今はなき(旧)すかいらーく、その会社にぼくは費やした時間と情熱を思い出させずにいられない。

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2018/03/15 2:16UP